わたしが結婚して間もない頃、ある坂道を車で通った時、妻がこんな話をしてくれた。
この坂を通ると何処からか小豆を洗う音が聞こえてくるらしいよ。
小豆ばばあが出るんだって。
最初にその話を聞いた時、杉に囲まれた坂道は薄暗く感じたものだ。
20年以上も経ってその話を思い出し、通称『小豆坂』に行ってみた。
これが『小豆坂』だ。
春の明るい陽射しが差し込んで、薄暗くもなくむしろ明るい。なんの変哲もない坂だ。
少し行くとこんな風にU字型になっている。
最初に見たときはもっと薄暗かった。周りの木が減ったのだろうか。
下から上をみた景色。残念ながら「小豆ばばあ」はいなかった。
もっともこの辺のような田舎なら小豆を洗っている婆さんの一人や二人いそうな気もするが…
当時と変わっていなかったのは、道路が中途半端に舗装されている所だろうか。
昔話なんてこんなものかもしれない。
「ぼうやー 良い子だ 寝んねしな…」で主題歌が始まる「まんが日本昔話」というアニメ番組が子供の頃あった。
『こぶとり爺さん』とか『さるかに合戦』、『桃太郎』など日本の昔話を30分間に2話ほど放送するアニメだった。2人の声優さん(男と女)が声を変えてすべての登場人物を演じるというかなり想像力豊かな番組だった。
わたしは「まんが日本昔話」の番組コマーシャルで流れる《語り》が好きだった。
記憶が正しければこんな感じだ。
となりのババさの原っぱにゃ
白いメギツネ住んじょって
夜には人が化かされた
遠い昔の話じゃて まんが日本昔話!
きっと人づてに伝わるうちに話が大げさになっていったのだろうが、人の考えたことや想像したことは面白い。
昔話や伝承の類は、日本人なら誰でも知っている有名なものは沢山あるが、地方地方で残っているものも存在する。文章で書き残してあれば後世に残る確率は上がるが、人から人へ口頭で伝承されたものの中には消えてしまったものだってあるはずだ。
わたしたちがどこから来てどこへ行くのか。誰も確かな事は分からない。
昔話や伝承にも確かなものはない。昔話として残る不思議、消えていく不思議を想った。
小豆坂(茨城県東茨城郡城里町高根)
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