Re: 返信
野島伸司(著)
色々な捉え方はあるだろうが、わたしはこの小説をミステリーだと思う。
登場人物の誰もが本心をいっているように見えるし、嘘をついているようにも見える。
メールの文面を信じろという方がどだい無理な話なのかもしれない。
一体誰が本当のことをいっているのか、最後の最後まで楽しめる。
20年前に『Re: 返信』を読んだとすれば、理解できずに終わったと思う。
携帯電話とそれを使ったメールのやりとりという環境が20年前にはなかった。
女子高生5人から主人公の担任教師に一斉に届く自殺予告メール。返信をめぐって主人公の過去と現在が交差する。
著者の野島伸司は、『ひとつ屋根の下』や『高校教師』など生き方を世に問うドラマで一躍有名になった。
この作品もドラマとしての素質は十分にある。
情景が頭にすっとはいってくる。
登場人物たちの息づく環境が日常のよくある風景だからかもしれない。
それは結婚式会場だったりマック(マクドナルド)だったりする。
俳優に言わせるセリフを考えることが脚本家の仕事の一つだとするとセリフの「間」も想定して言葉を吟味するのだろうか。
しかしこの作品はメールの文面が中心だ。メールについてあるいはわたしたちが考える文章について的を得ている言葉がある。
ううん、それも違う。言葉って難しい。なんかすぐ格好つけたがる。
メールでこんなことを実際に書く人はいないが、格好をつけたがるのは本当のような気がする。
この小説には一つのルールがある。
このルールがあるからこそ次々に届く自殺予告メールが真実味をおびてくる。
そしてこのルールを使って行う自殺予告ゲームには、勝者も敗者もいないということが現代の無気力感を読者にいやという程伝えてくれている。
結末を知ってこわくなった。
「事実は小説より奇なり」というが、実際の世の中ではこの小説以上のことが起きているのだろうなぁ、とも思う。
『Re: 返信』は、こわい小説だが、これを読んでみると現実はもっとこわいのだろうと思えてくる。
言葉遊びになってしまうけど、思い出せない事が、思い出という代物の正体なのかもしれませんね。はっきり昨日の事のように思い出せる事は、実は思い出にはなっていない。
主人公の言葉である。
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