樹脂
エーネ・リール(著)
枇谷玲子(訳)
タイトルが『樹脂』である理由は、読んでいれば気づく。
しかし、主人公リウが最後に発する一言で、読者はもう一つの『樹脂』の意味を知ることになる。
ハヤカワポケットミステリから出版されてはいるが、訳者あとがきにもあるように本国デンマークでも本書をミステリという扱いにするかは意見が分かれるようだ。
冒頭の一文でつかまれる。
お父さんがおばあちゃんを殺したとき、
『樹脂』より
白い部屋は真っ暗だった。
ちっぽけな島で、ほぼ自給自足の生活を送る主人公一家。
一家の少女リウの目を通して綴られる物語は少し衝撃的だ。
父親は家具などの修理をして生計を立てている。そして時々夜中に娘のリウを町に連れていく。
父と娘は盗みを働いている。食べ物、皿や自転車など生活用品を持ち帰る。
父親はもちろん「盗み」をしているという認識がある。母親もうすうす感づいているようだ。
悲劇的なのは、娘のリウにとって「盗み」はあくまで生活の一部であって普通の生活と考えていることだ。
盗んできたものを捨てられない性格の父。リウのおばあちゃん、つまり実の母親を殺した父。
そんな父親のせいでゴミ屋敷と化した家での生活は読者からすれば耐えられたものではない。
しかし、この生活を普通だと少女リウは考える。
ここに読者と主人公一家との距離がある。一家に対し共感できない部分が多すぎるのだ。
所々にあるリウの一人称視点。
リウの視点は、幼い少女の純粋な視点でもあるため、余計に物語の残酷さが強調される。
もちろんおばあちゃん本人も、死んだのははじめてだったはず…
『樹脂』より
エーネ・リールの描く『樹脂』は、とらえようによっては悲しい物語だ。
単純に考えるなら、身内を殺して普通に生活している変質者一家を描いた作品だ。
しかし、読み終えたあとに爽やかさを感じる。なぜだろう?
著者のエーネ・リールは物語の登場人物たちを、人間の性という視点に立って描いているからかもしれない。
でもそれは、誰にも内緒。
コメント