これはわたしの話ではない。わたしの中学生時代の友人の話だ。
中学生時代、わたしは同じクラスのO君と自転車で登校していた。
特に冬場から春先にかけて冷たい強風の吹く日が多かった。
強風のとき追い風だと天国だ。自転車をこがなくても進むくらいの強風だと自分の能力が上がったような気にさえなる。
しかし、強風の向かい風は最悪だ。
真正面から強風を受けると自転車を一生懸命こいでもほとんど前に進まない。
『人生辞めたくなるわ』と心の中で思うだけでなく、口に出してO君と言いあうこともあった。
ある向かい風で強風だった日、わたしはいつものようにO君と帰宅していた。
ちょうど周りにさえぎるものが何もない国道だった。
立ちこぎをしようが、低身でこごうが前に進まない。わたしは心の中で『もう辞めてえー』とつぶやいていた。
突然、前を走っていたO君が
「もう、やってらんねえ!」「うぉぉぉぉおーー」
と、自転車を投げ捨てて走りだした。
わたしは一瞬だけぼうぜんとしたが、O君が風の中を走っていく姿を見て『ああ、それもいいよな』と思ったのだった。
30秒ほどしてO君は何事もなかったかのように投げ捨てた自転車の所まで戻り、何も言わず自転車をこぎ出した。
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