魔性の子
小野不由美(著)
本作『魔性の子』は、十二国記(じゅうにこくき)と呼ばれるシリーズ小説の第1作。
ホラー、SF、ファンタジー、異世界、おまけに「人間とは?」まで問うなんでもあり小説が十二国記だ。率直に言って、十二国記シリーズはジャンル分けが難しい小説だと思う。
本作『魔性の子』の主人公広瀬は、高校に研修生として赴任した教師である。広瀬の担当することになったクラスに高里という一見近寄りがたい雰囲気の生徒がいる。そして高里の周りでは、奇怪な事件が次々と起きていく…
主人公広瀬と生徒の高里を中心に物語は進む。冒頭は学園を舞台にしたミステリー小説かと思ってしまうが、途中からホラーの様相を呈してくる。「そろそろ何か来そう!」といった雰囲気づくりはまさしくホラー。ところが、そのホラーテイストな文章のところどころファンタジー小説が挿入されてくる。なんだ?この小説は!昨今はやりの異世界も出て来るし、ホラー好きも、ミステリー好きも、もちろんSF好きも楽しめる。
わたしが面白いと感じた部分は、主人公の広瀬と謎の生徒高里とのやりとり、あるいは広瀬の指導教官でもある後藤とのやりとりで「人間とは?」の描写をいくつも見せつけてくれる点。最終的に、高里は世界を敵にまわしてしまうくらいの大きな存在となっていき、話も大きく膨れ上がっていく。しかし、その大きくなり過ぎた話を違和感なく吸収してしまうくらい魅力的な背景がこの物語には隠されている。この巻では異世界から登場するキャラクタが複数いるが、ほぼ正体がつかめずに終わる。麒麟(きりん)や白汕子(はくさんし)といった異世界からの登場人物達の名前は古代中国を彷彿させる。異世界の話は、ほとんど説明がなく読者は想像力を働かせる必要にせまられる。結果的にこの世界に興味をそそられてしまうのだ。
「誰だって全部の人間に良くしてやれるんならそうしたいさ。しかし順番をきめなきゃいけないときもあるんだよ。全員を好きだってことは、誰もすきじゃねえってことだ。少なくとも俺はそう思う」
十二国記はあくまで《十二国記》だ。『涼宮ハルヒの憂鬱』などもジャンルを問われると答えにくい小説だが、十二国記シリーズも雰囲気こそ違え、ジャンルわけが難しい小説の一つだ。格闘技で言うと総合格闘技みたい。でも見ていて(読んでいて)楽しい、みたいな感じだろうか。
『魔性の子』は、第1作目ということもあり、「一体この世界では、何が起きているんだ?」というところで終わってしまう。つまり、続きが読みたくなってしまう嬉しい仕掛けの巻である。
現在この十二国記シリーズは、新潮社より完全版として15冊刊行されている。(2020年3月現在)
本作『魔性の子』は、1991年に初版が刊行されていて、2020年の今、シリーズ18年ぶりに出た新作『白銀の墟 玄の月』第1巻~4巻が読書界を賑わせている。新作に合わせて新調された山田章博氏のカバー絵と挿絵もいい。こんな不思議な小説がまだあと14冊も読めると思うと幸せな気持ちになってくる。
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