檸檬
梶井基次郎(著)
31歳でこの世を去った梶井基次郎(かじい もとじろう)の作品集。
写真のこの夏に買った新潮社の単行本はまさに檸檬の色をした仕様の装丁だった。
わたしが単純に黄色が好きなので買い求めた本だったが、読んで見るとそういう視点もあるのかと唸らされた。
人間ふいにそういうことをすることもある。
もしかしたら誰も気づかないかもしれない自分だけが知っている行為。
わたしは標題の「檸檬」を読んでさくらももこ氏の漫画「ちびまる子ちゃん」を思い出した。
物語の内容についてではなく、切り取っている視点についてである。
ちびまる子ちゃんは、一見よくある小学生の日常を描いているのだが、今まで誰もが当たり前すぎて注目してこなかったような部分に光をあてていた。習字の題字「お年玉」を「おとし王」と描いてお姉ちゃんに笑われるシーンとか。(説明するとお年玉の「玉」の字の点を忘れた)押し入れに毛布で包まっているところをおじいちゃんが発見し座敷わらしと間違えて驚くシーンとか。
著者梶井基次郎の「檸檬」もその部分をあえて小説として描いている気がした。(決してお笑いの話ではないが)
人間の創作する本も漫画もまだまだ全てを描いている訳ではないのだなと思う。
本人も忘れてしまうようなささいな日常を残す役割として小説は存在しているのかもしれない。
水が腐ってしまっている花瓶が不愉快で堪らなくなっていても始末するのが億劫で手の出ないときがある…中略…それは億劫というよりもなにかに魅せられている気持である。
泥濘(でいねい)より
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