わたしが小学校4年生か5年生だった頃の話だ。
雪が沢山降ったある冬の日、妹と二人で鎌倉を作る事にした。
鎌倉を作るには沢山の雪が必要だ。
子供二人では雪を集めるのに限界がある。
なんとか雪を楽に集める方法はないだろうか?わたしは無い知恵をふりしぼった。
ふと、納屋の屋根に積もった雪が目に入った。
納屋はふつうの家屋より背が低く、わたしは夏場に納屋の屋根に何度も乗って遊んだ。
しかも納屋の屋根はおあつらえ向きにプラスチックのトタン屋根だった。
わたしの頭に一瞬にして、屋根に積もった雪を上から滑らせて地面に落とすというイメージが沸いた。
妹は安全のため下に待機させ、わたしは屋根に上ってイメージした通りの雪落としを実行した。
はじめは順調だった。
しかし、屋根の雪が残り半分に近づいた頃、わたしの心に魔が差した。
なぜそんなことを思いついたのか分からない。
小学生のわたしは、雪を滑らせて屋根の一番下先に来た時、自分も雪と一緒にジャンプして飛び降りようと考えたのだ。
頭の中のイメージでは「雪とともに屋根を滑り降りたわたしが、屋根の一番地面に近い所でジャンプしてかっこ良く着地する」だった。(オリンピックのスキージャンプ競技をイメージしていたのかもしれない)
しかし、実際のわたしはジャンプする直前に足を滑らせてしまい、頭の方から地面に向かって落ちていった。
地面に着く前に頭を守ろうと自然に手が前にでて受け身を取ったため、一応着地はできた。
かなりかっこ悪かったが、なんとか無事に着地できてわたしはほっとしていた。
しかし、不安そうな顔で妹がわたしに言った。
「兄ちゃん。血…」
足元をみると、真っ白な雪の上を赤く丸い点が一つ二つと増えていく。
赤い丸はどんどん大きくなっていった。
鼻のあたりから血が出ていた。その時、妹もわたしも鼻血だと思っていた。
事はもっと重大だった。
わたしの顔を見た祖母がさっと顔色を変え、親戚の叔父を呼びにいった。
叔父の車で病院に連れていかれたわたしは、鼻の左側を4針縫うことになった。
どうやらジャンプした拍子に雪の下にあった瓦の破片か何かで鼻の左側を切ったらしく、ぱっかりと鼻の横が割れて血が出ていたらしい。
反省すれば良いものを小学生だったわたしは自慢げに縫った鼻の傷口を友人たちに見せびらかした。
縫い糸の色がなぜか黒だったため、友人たちに「ブラックジャックだ!」と口々に言われた。
当時、ブラックジャックと言われて、わたしはいい気になっていたのは言うまでもない。
まあ、鎌倉もろくに作れないブラックジャックだが。
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