鬼人幻燈抄 江戸編 残雪酔夢(ざんせつすいむ)
中西モトヲ(著)
シリーズ第三巻は、江戸編の最後を飾る物語。
近しい人を自ら斬ることになる甚夜。親しかった人たちとの別れ。
暗くなりがちな話に一服の清涼剤ともなっているのが蕎麦屋の娘おふうや加賀谷の娘奈津の存在だろう。
おふうは、時々甚夜と二人道を歩きながら、花にまつわる話を聞かせ甚夜の心を気遣う。今後の甚夜との関係も気になるところだ。奈津はまだ子供っぽさの抜けない齢ながら、甚夜に恋とも親愛ともつかぬ情を抱く。
本書で初めて登場する人ながら鬼を討つ付喪神使い秋津染五郎(三代目)もなかなか魅力的な人物だ。(最初は胡散臭い登場だが…)ひょうひょうとした秋津と朴念仁な甚夜とのコミカルなやり取りは暗くなってしまいがちな話に救いともなっている。今回は特に甚夜と奈津にとっては心辛い話なので…。
本書江戸編の後には、幕末編、明治編へと物語は続いていく。
ネタバレでは無いが、まだ読んでない方の為に言っておくと、これまでに登場した人物、ちょっとした小物にまつわる話が、後の幕末編、明治編できれいに回収されていく。読者は、きっと心地良さを憶えるはず。
わたしが読んだソフトカバー本の表紙には泉の中で女性を抱く甚夜の姿がある。副題ともなっている「残雪酔夢」でのワンシーン。
女性の身に着けてる衣装をみて大方の予想がつくかもしれない。しかし、故郷の葛野を出てから初めて甚夜が妹鈴音の影をみつける重要なシーンでもある。
鬼人幻燈抄は言葉巧みだ。
「残雪酔夢」の章で、鬼が作った人々の正気を奪う酒《ゆきのなごり》が登場する。
《ゆきのなごり》の意味を知ったとき、これまでに読んだ鬼人幻燈抄の懐かしさとともに涙が出てきた。
ちらちらと 水面に雪の 名残りかな…
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