本の感想:博士の愛した数式

博士の愛した数式
小川洋子(著)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

記憶力を失った「博士」の言動がおかしくてつい笑ってしまう。
主人公であり家政婦の「わたし」とその息子「ルート」そして「博士」。この3人を結びつけている数学と博士の病気。最後にほろりとくる。記憶とはなんだろうと考えさせられる。

家政婦の「わたし」が仕事で紹介された相手は、記憶力がきっかりと80分しかもたない元数学博士。
かわいそうな病気であることは確かなのだけれど、博士の言動がきまじめかつ面白い。

博士が主人公の「わたし」に息子がいることを知り、問いただす場面。

「毎日?毎日君は子供を放り出して、こんなところでハンバーグなどこねているのか」
(だって、家政婦ですからねぇ)

博士はいつも数学の問題を解いている。てっきり数学以外に興味はないのかと思いきや子供が大好きなのだった。
子供がいると博士は豹変する。
子供がいないときは食事時にぼろぼろとそれこそ子供みたいに食べ散らかすのに、子供が同じ食卓につくと背筋を伸ばしてマナーが良くなる。子供がいないときは、数学に関しての話がほとんどなのに子供がいると普通の話題で話せるようになる、などなど。

数学が苦手なわたしでも、この小説で博士が「わたし」に説明する約数や素数の話を知ると、なんだか興味が沸いてくる。数学を楽しんでいる人が数学を説明するから面白く感じるのかもしれない。友愛数なんてわたしも探してみたいと思ってしまうのだ。

28の約数を全て足すと28になる。sこれは「完全数」と呼ぶらしい。

28 = 1 + 2 + 4 + 7 + 14

こんな知識を楽しく憶えてしまえるとは。
数学が得意な博士の記憶は80分しかもたない。
過去の記憶はそのままでも今現在からの記憶が80分しかもたないのだ。一体記憶がもたないというのは、どんな状態なのだろうか。わたしたちはこの小説で「わたし」とともに「記憶がもたない」ことの疑似体験ができる。博士が背広につけたメモのことを考えてみる。記憶が80分しかもたない人が80分以上前にに自分自身が書いてクリップでつけた背広のメモ書きを見直す。どこかさみしい気持ちになってくる。
後半、博士の病状は進行してもっとさみしい気持ちになってくるのだが。

子供は大人よりずっと難しい問題で悩んでいると信じていた、とはわたしの博士に対する感想だ。

個人的には、元タイガースの大投手「江夏豊」のエピソードが時折登場するのが嬉しかった。
江夏豊の背番号は「28」。博士に言わせると完全数。

数学って面白い。子供って大切だ。記憶ってなんだろう。
改めて気づかせてもらった。小川洋子って凄い。

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